第0話 ライムの末裔

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第0話 ライムの末裔

 窓の外から鳥の声が聞こえた気がしたのを、お昼ご飯の後片付けをしながら私は知った。いつも昼間に聞く鳥の声とは違って、なんだか悲鳴を上げているような鳴き声だった。  お父さんとお母さんはご飯を食べた後、ライムの森での仕事の準備で出かけた。  お父さんはライムの森に住む民をまとめる為の会合に長として参加し、お母さんはライムの森で採れる木の実を収穫しに行った。忙しいお父さんとお母さんの代わりに、私がお昼の片付けをしているの。  私はお皿を布で吹き、皿を重ねた。これでお昼ご飯の片付けはお終い。私は先程昼ご飯を食べた机に紙と絵の具一式を置き、椅子に座って昼前に描いていた絵の続きを描こうとした。この絵は私の家で暮らしている兄的存在な人――私が恋慕っている、思いを寄せている人に見せる為に描いているの。  丁度絵を塗ろうとした時だったと思う。家の外からパチパチと木が燃えるような音がした。まるでお風呂の水を薪で焚くような音と、同じ音がする。  だけどその音は、お風呂を焚く音より遥かに大きい。私は絵を描く事よりも、木が燃えている様な音の方が気になってしまった。ついに絵を描くのを止めて、その音の正体を確かめる為に家の戸を開いた。  外の世界は、普段目にしていた景色とは別世界の様だった。  見慣れていた緑の葉の木は、炎に包まれ赤色の葉に変わってた。葉は火が弱まっていくと、焦げた色の葉に変わり、次第に灰色の粉になり落ちていった。沢山の木が同じように、ライムの森の緑色を赤く染め上げ灰になっていった。  あまりにも変わり過ぎた外の世界に、私は凄く驚いていた。何故、ライムの森の木々が燃えているのだろう。私はその大きな炎達の怖さで動けなかった。  私はふと家全体を見る為、家から離れた。見た瞬間、私はあまりにもの衝撃に立ちすくんだ。家に生えている周りの木々の炎が私の家に移り、燃え始めていた。  炎は屋根を燃やしながら、家をまるごと飲み込んでいった。僅かな時間の間だった。その瞬間を、私はただ立ち尽くし見ているしか出来なかった。  その時、私はふと思った。私のお父さん、お母さん、ライムの民、そして私が心から慕っているあの人は、今何処にいるのだろう。まさか、この炎の海に飲み込まれてしまったのかもしれない。  私は湧き上がる不安に、心を痛めずにはいられなかった。森の入口付近にある私の家、家の近くにある木々が炎に包まれ始めた。またライムの民が色々と話し合う場所――会合をする場所の方は炎で見えないけど、既に全てを焼き付くしたと思う。  多分、お父さんとお母さん、そしてライムの民、私が慕っている大好きな慕い人は、もう助かっていないと思う。助かるのは絶望的だと思う。  込み上げそうな涙を拭き、そっと空を仰いだ時だ。私の頭上に燃え上がる炎で崩れた家の木材が、私の頭の上に落ちてきた。私はただ木材が落ちて来ている事に対し、呆然とする事しか出来なかった。  そこから私の記憶は無い。多分、炎をまとっていない木材が私の頭上に落ちてきたからだと思う。  だけどその記憶が無い中で、私は同じライムのマナと変わったマナを感じる事が出来たのを覚えている。確かライムの民のマナと、ライムの民とは違う純粋ではない他の種族のマナが掛け合わさったマナだった。温かいマナだったの。このマナの温かさは、ずっとずっと兄のように、恋い焦がれながら慕っていたあの人のものだと私は確信した。  でも、私はその人の顔や声、名前を覚えていない。覚えていた記憶が抜き取られている。恐らく木材が落下し、頭に直撃したせいでその人の記憶を失ってしまったのだと思う。  目を覚ませば、目の前には深緑豊かなライムの森の跡形も無い姿が目に映った。ただ、大昔から植えられている神の木――大木のみが残っている。私が過ごしていた、沢山の思い出を作る事が出来た愛しいライムの森は、もう無い。  更にビアンコ地方の役人と思われしき人達が私を囲っていた。私が目を覚ましたのを見た役人が、私に話し掛けてきた。 「ライムの森の火災から三日間経ったが、ライムの民生存者はこの少女だけか」  役人はそう言うと、私を哀れな目で見た。私は役人の言葉を聞いて、三日間気絶をしていた事、生存者は私しかいない事に衝撃を受けた。私だけが生き残った。それは同時に、お父さんやお母さんを含め、ライムの民が死んでしまったという事になる。  その事を聞いて、私は涙を堪える事が出来なかった。自分を大切にしてくれた人が、当たり前だった生活が、あの火災で全て無くなった。  だけど涙を拭いてる最中、役人の言葉に私は違和感を覚えた。何故なら、私が気を失っている最中に兄と慕っていた、恋心を抱いている慕い人のマナの感じがしたのを覚えているからだ。  もしかすると、その慕い人は私を安全な所――今いるこの場所へ私を移動させ、助けたのかもしれない。ううん、きっと慕い人が私を助けてくれたのだと思う。 「ライムの民が一名だが、生き残って良かった」  役人達はそう言った後、私がこれから暮らしていけるように支援をしてくれると仰ってくれた。私はそれに有り難く承諾し、ライムの森から少し離れた場所で暮らす事になった。沢山の支援を受け、なんとか暮らせる事が出来た。  その中で、私は叶えたい夢が出来た。それは私を助けてくれた、記憶は抜けているけどずっと恋慕っていた人を探し、見つける事。  私を助けてくれたあの人は、必ず何処かにいる。両親をライムの民を失った私にとって、その夢は希望なの。  それは、十一年経った今でも変わらない夢。  きっとこの世界の何処かにいる、ずっと一緒に過ごしてきた、恋慕っているあの人を私は探したい。  絶対、会ってみせるんだから。
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