すがたかたちがかわっても

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 暗い気分の自分に追い打ちをかけるように、雨がザァザァと強く降っている。ため息は雨の中に消えて、それを吸収したんだろうか、強く降り続けている。靴と靴下が濡れていて気持ち悪い。まるで今の自分のモヤモヤのように。せめて気分だけでも現実から逃げたくて、親からは通ってはいけないよと言われていた公園を通って帰ることにした。古びて使えなくなった遊具のある公園は晴れの日でもほとんど人がいなくて、今は野良犬が住みついているというウワサだ。昔はこの公園で、"あの子"と遊んでいたなあ。  かくれんぼに使っていたドーム型の遊具の中を覗き込むと、自分は悲鳴をあげそうになった。 「あら、お客さんかしら」  中には暗い髪の色をした女の人と、何か、がいた。女の人の制服が近くの女子校のものだったので高校生だろうか。 「こんにちは。目元のほくろがキュートなお嬢さん」  彼女が自分の目元に指を当てて呑気にあいさつをした。思わず自分も目の近くにあるほくろに指を当ててつねるが痛い。夢じゃない。 でも、自分が驚いたのは、彼女にではない。彼女の隣には、なんとも言えない色をした、丸い物体がいたからだ。遊具にすっぽり収まるそれは人間の髪の毛みたいなもので顔が隠れている。明らかにぬいぐるみじゃない。だってそれは、呼吸をして、動いていた。 「ごめんなさい。驚かせたよね。大丈夫だよ、この子は怖くないよ」  そんなこと言われても! 優しい手つきで"それ"に触る彼女を見て、怖かったが、何故だろう。彼女の声を聞いていたら落ちついてきた。見た目によらずハスキーボイスで、でも喋り方は優しくて。 「もうここにはいられないかもなぁ」  悲しそうな彼女と"それ"を、自分はほっとけなかった。
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