すがたかたちがかわっても

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 今日は綺麗な夕日。あの彼女と怪物のもとに通ってから、少し経った。怪物というと彼女は怒るけど、だって怪物は怪物だもん。今日も帰りに遊具の中に入ると彼女と怪物が出迎えてくれた。彼女はタピオカドリンクを二つ持っていた。 「ごめんね、貴女の分がなくて」 「あ、大丈夫です。自分はお弁当を食べるので」  今日も今日とて彼女に学校の出来事や愚痴を話す。ここに来るたび聞いてもらっている。自分の学校は県内で唯一給食がない学校なので、昼にはお弁当が必要だ。お弁当は毎朝お母さんに作ってもらっている。 「あら。今からお弁当?」  ハンカチを解いて箱を開ける。今日はからあげ弁当。自分の大好物! 「……また今日も、話しかけられなくて。考えたらお腹痛くなって」 「話しかけたらいいじゃない」 「そうしたいのは山々なんですけど、でも自分も同じ目にあったら、怖くて」 「ふーん」  言い訳をする自分にイライラが募る。イライラとモヤモヤが合体して今度は気持ち悪い。お弁当を食べる前なのに。  彼女がタピオカドリンクを怪物に差し出す。怪物が嬉しそう?……なのかな、よくわからないけど、身体を上下に動かしている。それと同時に髪みたいな物が揺れ動いていて、それが気持ち悪い。手足がないから髪と身体の動きが感情を表しているみたいだ。 「じゃあ、まず休日に誘えば? こうやってタピオカでも飲んで」  彼女はタピオカドリンクを自分に渡してきた。 「あの子が、あげるって」  以前、怪物の気持ちがわかるんですか? と聞いたら、彼女はただ一言「好きだからね」とうっとりとした表情で答えた。まるで少女漫画のキャラクターのよう。その怪物は男の子だろうか? 彼女曰く、怪物はもともと人間で、ある日突然この姿になってしまって人間と住めなくなったため、ここでこっそり暮らしているとのことだった。信じられなかったけど、怪物はこうして息をしているし、彼女が世話をしている様子は、姿形が変わっても、本当に恋をしているように見えた。本当はこんなサビくさいところではなく、一緒にオシャレなお店に並んで流行りのものを食べたいだろうに。 「でも、タピオカは人気が高いからクラスの子に見つかっちゃいます」  もらったタピオカドリンクを飲み始める。渡されたのはタピオカミルクティーで、本当はミルクティーが苦手なんだけど、貴重なタピオカなので我慢して飲むことにした。だって、タピオカ高いもん。 「じゃあ、家に呼ぶとか? 昔はよく遊んでいたんでしょ?」 「家……」  それなら、大丈夫かも。うちの家は学校から離れていて、同級生も近くにいない。なんで気付かなかったんだろう。あの子は多分もう帰っているはずだから、日曜日にあのマンガを読ませてよと言いに行こう。こういう時、スマートフォンがあればなあ。  彼女はタピオカを食べるのに苦戦していた。怪物はそれを笑うように、身体を動かしている。でもやっぱり髪の動きが気持ち悪いなあと思った。
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