すがたかたちがかわっても

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「あの子、つらくて泣いてた」 「うん」 「学校で無視されたり、コソコソ言われたりがつらいって。だから言ったんです。学校に行かなくてもいいじゃん!って。そしたら、学校に来なくなっちゃった」 「あらら。その子は元気?」 「すごく元気なんです! プリントを渡しに行くと、学校にいる時よりイキイキしてる!」  あの子の担任に頼まれて、こっそりプリントを持っていっている。悪いことをしていないのに、クラスの子たちに見つかるのが怖くて。あの子はプリントもキチンとやっている。勉強はイヤじゃないんだ。ただ、学校がイヤなだけ。 「でも、今日おばちゃんに言われちゃった。あの子が学校に行くように説得してくれないかって」 「あー……」  さっきから怪物がいやに静かだ。いつもだったらドタバタ動いて反応してうるさいのに、今日は静かに自分の話を聞いているような気がする。 「でも、そんなこと言えるはずないよ。だって、あの子のクラスはみんな、あの子を無視するもん」 「じゃあ、先生は?」  先生……あの子のクラスの担任の先生は、ちょっと老けた頼りなさそうな男の先生。あの子の状況をなんとか出来ていない、そんな先生に言ったって。 「先生に相談したってムダだよ」  すると今まで黙っていた怪物が突然動き出した。上下に動いて、髪の下から黄色い液体をドロっと流してきたからギョッとした。 「d/m++++d?y! h<y>>k..s—ns~~~n¥¥¥tt0!」 「も〜。驚くから急に泣くのやめなって言ったじゃん〜〜」  黒板を爪で引っかいたような、そんなキーキー声が怪物から発せられる。耳をふさいだら、怪物のことが好きな彼女が傷つくかと思って、なんとか耐える。 「な、泣いているの?」 「うん。実はしょっちゅう泣いてるよ。よしよし」  液体で制服が汚れるのも気にせず、彼女は怪物をあやしている。 「先生に言って、って。あの子を助けてあげて、って言ってる」  彼女が怪物の言葉を代弁する。 「先生に相談してみたら? そりゃあ、怖いかもしれないけどさ。一人で抱えるの、キツイでしょ」  怪物がうんうん頷いている、気がした。頷けば頷くほど、液体がぼとぼと落ちてゆく。なんだかそれが、自分の気持ちのような気がして、胸騒ぎがした。
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