すがたかたちがかわっても

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 先生が対応してくれた。実はクラスの子の親たちに相談中だったらしい。どうやら、無視や陰口だけじゃなかったと。一安心していたら、また事件が起こった。今度はあの子とあの子の両親がケンカをした。あの子が、両親が自分に頼んだことを知ってしまったらしい。そのケンカ中にあの子は親に、学校に行かなかったから、家から出ていけ!……って言われたって、玄関で嘆いていた。あの子はイヤイヤ学校に行ったけど、やっぱりなかなか馴染めず、ひとりぼっちだ。 「せめて、ご飯だけでも一緒に食べれたらなあ」  あの子は自分の声の低さを気にして、口数が少ない。自分とは長い付き合いだから結構喋れるけど……。学校でも安心してお話出来たら。  彼女が喋る前に、怪物が上下に動いている。髪の毛をうねうね動かして、手招きしている気がした。 「k@@@@@I!」  またキーキー声を出している。何かを伝えようとしている。 「お話できるって分かれば、怖くないよね」  彼女がいつもより深刻そうな顔をしていた。 「クラスの子たちはどう話しかけていいか、わからないってこと?」 「そうそう。お話したくても、どんな話題を切り出していいか、わからないんだよ。たぶん」 「じゃあ、あの子のクラスに行かなきゃ……。でも、怖いなあ……」  ただでさえ目立っているのに、自分が行ったら迷惑じゃないかなぁ……。  ……いや、自分はもしかして逃げたいのでは? それを言い訳にして、自分が怖いから、逃げようとしているのではないか? そんな……そんなこと……。クラスに行く。ふりそそぐ視線。あの子の席に行く。さらにふりそそぐ視線、と、聞こえる話し声……。  身体が固くなる。何かに見つめられて動けない。視線を感じた。彼女じゃない。怪物だ。怪物がジッと自分を見つめている。そういえば、今まで気にしなかった。髪に覆われて隠れていたから、気にしていなかった。この怪物、目がある? 震える手で怪物の髪を触る。ベタベタして気持ち悪いかと思ったが、サラサラな髪で、嗅いだことのあるシャンプーのニオイもした。彼女が毎日シャンプーをしてあげているのかもしれない。髪をかき分けると、目が見えた。人間の目の色を反転させた色合いと、目の近くの黒い点……。  ガタガタと、歯が、身体が震えだす。 「あ、あの、自分……」 「ただ一言、声をかけて欲しかったんだ」  彼女は静かに、自分に伝えた。 「ただ、つらい時、少しでもいいから一緒にいて欲しかった。誰も見えないところで、お話がしたかったの。……今みたいに、ね」  昼休み。不思議と震えはない。騒がしい廊下を通り、あの子のクラスに向かう。あの怪物に比べたら、何も怖くなかった。教室の前に立ち、扉の前で深呼吸をした。ご飯食べよう、って、言おう。
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