天使 下界へ

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天使 下界へ

「さてと…… 」  私は、久しぶりに下界へ降りてきていた。 空や空気は、天界のようには澄んでいない。 以前は、違う部署にいたので、よく下界に降りていた。その仕事とは亡くなった人間の魂を迎えに行く仕事だった。  今現在は、新人天使を指導する部署に変わった。 その部署は年に一度、新人天使を連れて下界研修を行う。その付き添い係りに当たると、下界へ降りる事になる。 しかし、同僚天使が喜んで下界に降りたがるので最近の私は、同僚達に譲ることが多かった。  大都会の東京、都下の、とある市に来ている。 ここは、都会へのアクセスも良く、ベッドタウンとして、生活している人が多いそうだ。  今、朝の10時過ぎ駅の改札付近。 問題の人はそろそろ、ここを通るはず。 「あっ、来たわ」 私は、何気なくその人の後について改札を通った。  問題のその人、泉野隆史(いずみのたかふみ) 男性、56才。定年まで残り四年の所で、長年働いてきた会社のリストラ候補に上がっている。 その上、病気を患っているのだ。 そして今日、病院で精密検査の結果を聞くのだが、余命宣告を受ける事になる……  悪魔が接触してくるであろう、リストに載っていた一人だ。 病院は、電車に乗って5駅先。 電車の中では、悪魔は接触して来ないと思う。 けど、こればかりは、私にもわからない。  私は、少し離れた所に立って、何気なさを装いながら、注意深く辺りを伺った。
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