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春。桜の花が咲き乱れる季節。一年のうちで別れ、出会いの二つを司る目まぐるしい季節。
それはここ『つくしんぼクラブ』においても例外ではなかった。一年契約で預けられていた幾名かの子供たちが幼稚園、保育園、あるいは小学校へと巣立ち、入れ替わるように新たなメンバーが加わったのだ。
「春って何だか複雑な気分ですよね」
新しく作り直した名簿を見つめながら、菜奈子がつぶやく。
ショートカットの艶やかな髪と、理知的な瞳が印象的な可愛らしい女性。
前髪をピンで二つ分けにしているせいで年齢より幾分下に見える彼女だが、実際は二十三という年齢よりかなりしっかりしている。
「嬉しいような悲しいような……そんな感じがしません?」
つくしんぼクラブは託児所なので幼稚園などのように入園式とか卒園式とか、そういった類いの儀式めいた区切りはないのだが、徐々に、といった形でメンバーが入れ替わっていく。
「そうだね」
淡く微笑んで相槌を打ったのはここのオーナー、二条院帝太郎。
トレーナーにジーンズというラフな格好に、ここの唯一の制服とも言えるほんわかタッチのアヒル柄がプリントされたエプロンを付けている。そのエプロンの上に乗っかるようにして、首から提げた小さな巾着袋が揺れていた。中にはお守りでも入っているのだろうか? 彼ならばそんな年寄りめいた信心深さも違和感なくうなずけてしまいそうな気がする。
のほほん、と春風が服をまとったような帝太郎だが、こう見えて彼、玉に悪鬼を封じ込める「玉封師」なる術者一族が長の嫡男である。
その血統ゆえに、幼いころより無条件で霊能力者としての修行を強いてきた父に反発し、十八の年に生家を離れて今日に至る。
十四年の歳月を経て現在いまは託児所を経営しているのだが、いずれ家を継がねばならないことは覚悟している。
だが、今はまだその時期ではない。
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