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長である父は健在なのだし、その日がくるまでは託児所を中心とした生活をしていたい。
しかし、好き勝手させてもらっているという負い目も強いので、最近は来たるべきその日に備え、副業で玉封師としての仕事もこなすようになっていた。
帝太郎、術者としての能力は生まれつき高かったので、その気になればすぐにでも家を継げるだけの実力は持っている。
しかし、当然のことながらこの託児所を離れたくないという思いも強い。
何故なら帝太郎は無類の子供好きだから。
玉封師としての素質が生まれつきのものだとすれば、託児所経営をしている今の自分は天職に就いているという自負がある。
悪あがきだとは思うが、追い詰められるまでは現状を維持していたい。
頭の中はいつまで経ってもそんな考えがぐるぐる、ぐるぐる。
本当に切羽詰らなければ現状を打開することは不可能だろう。
「桜の花を見るときの気持ちに似てるな」
先ほど帝太郎が告げた、「そうだね」の言葉に付け加えるようにそう言ったのは、長着姿という託児所内で見るにはかなり奇異な風体をした男。
名を玉郎という。
まるで人間のようにこの場に溶け込んでいる玉郎だが、彼、実は帝太郎に仕える鬼だったりする。
帝太郎が首から提げた巾着に入っているのは、鬼と化し我を失っていたころの玉郎を封印した封じの玉だ。
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