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かれこれ数百年も前の話になるのだが、帝太郎の先祖に当たる玉封師によって、玉郎はこの玉の中に幽閉された。
玉封師によって封印された鬼は、長い年月をかけ、自身を鬼として狂わせてしまった負の情を玉に吸収されながら過ごす。
全ての念が浄化された時、この玉には封じられた鬼の想いが反映された和歌が浮かびあがってくる。
能力ある者が光に透かしたときにだけ浮かび上がるこの文字は、その歌意を理解してつぶやいた玉封師に封印を解かせる仕組みになっている。
そうして封印を解かれた鬼は、仕えるべき玉封師が死すまで、その者以外の主人を持つことが出来なくなってしまう。
帝太郎の生家にはこの玉を安置した御霊屋という、お堂によく似た建物が存在している。
その中には何十本もの蝋燭に照らされて、何百もの封じの玉が安置されているのだ。
玉郎の玉のように念を清められ、和歌が浮かび上がった玉もいくつかあるが、その大半は未だ想いを消し切れていない不安定なものが占めている。
玉は浄化されると祭壇に祭られ、鬱念を断ち切れずにいる封じの鬼たちを見張る結界となる。
歴代の玉封師たちは清浄化された玉とともに不安定な封じの玉の封印が解けぬよう監視し、また、文字が現れた玉の中から自分に合ったものをひとつだけ見繕い、その鬼を使役して人に仇なす異形たちを封じてきた。
裏返せば、玉封師が封じの玉を手に取るのは普通、物心ついてからということになる。
しかし、その高い能力を見込まれてか、帝太郎は赤子の折から玉郎の玉を持たされて育った。
これは帝太郎が生まれたその日から、玉郎の玉が何度も祭壇の上から転がり落ちたのが原因なのだが、帝太郎の父は、それを見て息子とこの鬼が引き合っている、と判断したらしい。
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