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父との軋轢からその玉の持つ意味は何も聞かされぬまま、ただお守りのように身につけ家を飛び出してしまった帝太郎。
しかし図らずも、二十歳の誕生日にバースデーケーキの上を彩る蝋燭の明かりに封じの玉をかざしたことがきっかけで、このからくりに気付いてしまった。
その上、玉中に揺らめく和歌を何の気なしに口にしたのだから大変だ。その瞬間、玉郎の封印は解けた。
最初、歌意は理解していなかったと思う。しかし何度かつぶやいている内にぼんやりと内容が理解出来てしまったのが運のつきだった。
ランプの魔人よろしくいきなり湧き出た男に仁王立ちで「理由はどうあれ封じを解いた以上主人になってもらわねぇと困るんだ!」と詰め寄られてしまった。
当時玉封師になるのが嫌で家を飛び出していた帝太郎だ。かなりしぶしぶの体で玉郎を受け入れたのは言うまでもない。
「玉封師になんてなる気はないよ?」
そう念押しした上で、玉郎の主人となることを了承したのだった――。
それ以来、帝太郎が望みさえすれば、玉郎はこのビー玉サイズの小さな玉を、靄のようになって出入り出来るようになった。
もともとぼんやりのほほん……が売りのような帝太郎だ。
生きていくということを余り深く考えず、出来あい品を食べてはゴミ溜めのような環境で暮らしていた。
そんな彼を見かねて世話を焼くうちに、いつの間にか主夫のようになってしまった玉郎である。
今では二条院家の家事は全て玉郎の双肩にかかっていると言っても過言ではない。
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