仮面の下の魔物

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僕はバケモノに成りたかった。 本当にそう成れていたらどれだけ良かっただろう? こんなに惨めで、不格好な思いをせずに済んだのだろうか。 思い出すのは楽しかったあの日々。 村を駆け回り、色んな人たちと色んな話をした。 村のはずれに住んでいるおじいちゃんが一人でクマを狩ったことや、村一番の美人が幼馴染の子と結婚したことだって、それを聞いて村の男衆が悔しがりながらも、結婚を祝福していたことも僕は知っていた。 他にも意地悪なことを言うおばあさんがほんとはとっても優しいことや、村の子供たちが広場に置かれた日時計を熱心に眺めていること…そのひとつひとつを村のみんなが教えてくれたんだ。 たまに喧嘩をすることもあるけれど、嘘偽りの無い感情をさらけ出した後にはすっかり仲直りして、また笑顔を見せていた。 みんな心の底から笑って、泣いて、喜んで、悲しんでいた。 そんな彼らだからこそ僕を受け入れてくれたんだ。 ボロボロの外套を纏って、半ば行き倒れのような形で村に転がり込んだ僕に深く事情も聴かず、住む家と仕事を与えてくれた。 権利を与えてくれた。 僕を人にしてくれた。 そして今、そんな人たちがただのモノになっていく様が目の前に広がっていた。 二度と外れない仮面を付けられて、ただの無機質な機械に変貌してく姿を目に焼き付けることしか僕には許されていなかった。 「やめて!そんなもの付けないで!」 村で一番の美人だった彼女が端正な顔をくしゃくしゃにして泣き叫ぶ。 うるさいと言わんばかりに仮面を付けた『人間』が彼女の頭を掴んで持ち上げて…仮面をあてがった。 彼女は切り裂くような悲鳴を上げて暴れたが、仮面が固着していくとともにその悲鳴も動きも小さくなり、果てには静かになった。 「なんで…なんでこんなひどいことをするんだ!」 村の男衆の一人が絞り出すように叫ぶ。 仮面を付けた『人間』は貼り付けた笑顔を浮かべ、答える。 「ひどい?違うこれが『普通』なんだ。大丈夫、すぐに君もこれが『普通』になるよ」 また一人、『人間』になっていく。 そしてその『人間』が新しく張り付けた笑顔を浮かべて僕に言う 「もう大丈夫!このバケモノたちは僕らがやっつけるから!さぁ一緒に帰ろう!」 そんな光景が村中に広がっていた。
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