後編  流浪

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ですが、絵を描くことは止められませんでした。 目覚めた後は衝動的に河原の砂をなぞり、切り株を刻み、岩肌を擦り、彼等を描きました。 そして疲れて眠ってしまえば、再び木の向こうからこちらを伺う三つの目玉だの焚き火の周りを飛び交う小さな天女だのを見るのです。 気が狂いそうで、また気を鎮めるために絵を描くのです。 私はなんとなく、自分があちらの世界に近づいているのだと感じていました。それがとても恐ろしいと思う反面、そちらに行ってしまえば楽になれるのではないかとも思っていました。 そんな生活を数ヶ月続けて、ある山の中で何時ものように焚き火をおこし眠っていた時のことです。 炎の揺らめきを見ながらうとうとしていると、木々の向こうから視線を感じました。 私は薄眼を開けて、荷物の紐をさりげなく握ります。盗賊や獣からすぐに逃げられるよう、普段から荷物は纏めてありました。 この時の私は、この世のものとあちらの世界のものの気配が区別できるようになっていました。 視線の主は、どうやらこの世の人間のようです。 二本足で歩く草履の擦れる音と、金属がぶつかるような甲高い音が近づいてきます。 私はすぐ起きられるよう脚に力を込めました。 「そんなに怯えなくて良いのですよ」 今にも逃げ出そうとしていた私を、優しい声色が引き留めました。
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