前編 魍魎

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それらは人の形をしていない時もありました。 夜中にずるっずるっ・・・と濡れた着物を引きずるような音で目を覚ましました。 なぜだか冷や汗がどっと吹き出て、体が石のように強張ります。 怖くて、けれども隣で寝ている両親に助けを求め声を出すと襲われてしまう気がして、砂の中の貝のようにじっとしていました。 納屋のような家屋で一家揃って雑魚寝をしておりましたから、音はすぐに私の近くまで迫ってきました。 体は震えておりましたが、何故か薄眼を開けながらじっと暗闇に目を凝らしていました。 音は私のすぐ目の前を通っていきますが、何も見えません。足元から来た音が、やがて頭の先まで通過して行き、心の底から安堵しました。 突然、ぎょろりと目玉が暗闇から現れるまでは。 幸か不幸か、恐怖と驚きで声は出ませんでした。 その目玉は、いや、目玉をもった何かでしょうか。しばらくギョロギョロと目を動かして、瞼を閉じたのかすっと消えて、音も遠ざかって行きました。 家族に話してみると、よくもまあそう何回も変わった夢を見られるものだ、と苦笑いされました。
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