前編 魍魎

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怖い思いを何回もしたものですが、助けられたこともありました。 その年の冬はとても寒く、家の中で寝ていても年寄りが凍え死んでしまうほどでした。 私には両親と5人の兄弟がおり、眠る時はござや藁を床や体の上に乗せた挙句、ぴったりと身体をくっつけて寒さを凌いでおりました。 しかし、その日は風の強い日でした。 隙間風がひどく、雪の日の方がましなくらいでした。 幼い弟や妹が凍えてしまわないように1番外側で寝ていた私は、乾いた冷たい風を背中に浴び、歯をカチカチ鳴らしながら横になっていました。 温もりを求めて家族に精一杯しがみつくのですが、背中は芯まで冷めたくなっていて身体を震わせるのです。 そんな状態が夜更けまで続くと、寒さよりも眠れないことが辛くなってきました。頭の奥がじぃんと熱くなり、瞼の周りがだるくなってきます。 もう辛くて、眠りたくて、寒くて寒くて、今にもベソをかいてしまいそうでした。 そんな時、背中にふわりと暖かい手が添えられました。母親だろうかと目を彷徨わせると、母親は兄弟を両手に抱えて寝ています。 また怖いものが来たのかとぞくりとしましたが、不思議とそんな気配はしませんでした。
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