前編 魍魎

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そっと後ろに目をやると、上等な着物に身を包んだ美しい女性が居ました。暗闇の中でもはっきりと姿が見えたのは、女性の体の輪郭がうっすら光っていたからです。 思わず感嘆の声を漏らすと、女性は菩薩様のような優しい笑みを浮かべ、暖かい手で背中をさすってくれました。 凍えきった背中は春の陽射しを浴びているようにぽかぽかと暖かくなってきて、それを心地よく感じているうちにいつの間にか眠っていました。 それを兄弟に伝えると、怪訝な顔をしてお互いに顔を見合わせていました。 私はこの頃からようやく、私に見えているものが他の人間に見えていないことに気付き始めました。 それについて口外してはいけないのではないか、とも。 しかしこの時の私はまだ、他の人間が見えていないものと私の見えているものの区別がつかなかったのです。 さらに、不思議な者たちの住む世界は私に近づいてきたのです。
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