前編 魍魎

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私は見たものを誰かに話す代わりに、地面や木片に描くようになりました。 まだ子どもの拙い絵で、おまけに胴体から腕を8本生やした蜘蛛女やら頭が狼の大男なんかを題材にしているものですから、家族にも村人にも絵が下手だなあ、と笑われていました。 いい気持ちではありませんでしたが、見たものを話せば奇異な目で見られることは分かっています。 また、貧乏で紙が買えず読み書きも出来なかったので、感じた恐怖や不思議なものを見た高揚感を吐き出すには、こっそりと絵を描くしかありませんでした。 毎日毎日絵を描いているうちに段々上達してきたようで、うっかり絵を見られようものなら顰めっ面で侮蔑の視線を投げかけられてしまいます。 皮肉にも、何を描いているのか誰の目にも明らかになってしまったのです。 ひどい時は気味の悪いものを描くんじゃないと、地面に描いた絵を踏みにじられてしまうこともありました。 段々私は、気味の悪い子どもとして見られるようになってきました。 まだ、それだけなら、どんなによかったことか。
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