前編 魍魎

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月が綺麗な夜のことでした。 蒸し暑い夜でしたが、銀色の月だけが涼やかな光を放っていました。 私は寝床に寝転び、ぼぅっと眺めていました。 すると突然、その月がふるりと揺れて、鈴の音が鳴りました。すると、はらはらと白い雪が降ってきたのです。 私はすぐに現実ではないと分かりました。 しかし、雪ではなさそうです。 はらはらと白いものが降るにつれ、月がやせ細っていくのです。 白い雪に見えたものは、月の剥片でした。 月の剥片は床に積もり続け、淡く光る雪原のようです。月の上はこんな景色なのだろうかとも思いました。宙には白い光の花弁が舞っています。 なんと美しいのでしょう。 これは是非とも描きたい。 いや、土の上や木の板切に描くのは勿体無い。 ああ、胡粉だけでもあれば、紙の一枚でもあれば。 けれども、描かずにはいられない。 早く朝にならないだろうか。 高揚感と感動ではち切れんばかりの心を抑えながら、朝までその情景に魅入っていました。
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