ある日、突然シロに

1/5
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

ある日、突然シロに

 目が覚めたら、シロになっていた。  飼い主の美里は俺の頭を撫でながら、「じゃあ、行ってくるねッ!」と言い残し、マンションの部屋を後にした。って、何で俺がシロに!?  なぜこうなってしまったのか。理由はわからないが、姿見に映った俺はシロになっていた。美里が仕事に出かけたあとの部屋。声帯模写するように、小さく吠えてみた。うん、真似る必要はない。紛れもなく、犬だ……。  いつもと違って見える部屋の景色。犬の目線で見ると、この部屋もけっこう広く感じるなぁ。窓もベッドもテーブルも、とても大きく感じる。感心しながら眺めていると、口からダラリとヨダレ。生まれ変わった気分に浸りながら、部屋の中をウロウロと歩き回ってみた。  いつもと違って見える部屋──なんて言ったのは何を隠そう、俺は美里の彼氏だからだ。正確には、彼氏だったからだ。もちろん、こうしてシロになる前。矢吹ケイとして、美里と付き合っていた。もちろん二人は今も付き合っている。二人は──いやいや、なんで俺が俺自身を他人事のように語ってるんだ──俺たちは同じ職場で働いているから、今日だってきっと一緒にこの部屋に帰ってくるはず。  とりあえずテレビでも見ながら時間を過ごそう。肉球のせいで悪戦苦闘しながら、なんとかリモコンの電源スイッチが押せた。朝の情報番組が流れ、画面にはペット特集。犬が夢中になって、テレビに映るペットたちを観てる。そう思うとなんだか笑えてきて、一度だけ、また小さく吠えてみた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!