ある日、突然シロに

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「いつか結婚して子どもができたら、シロに見せてあげたいんだ」美里は月を眺めながら言った。 「それまでシロ、生きてるかなぁ」 「もうッ! 身も蓋もないこと言わないでよね……」 「ごめん」  と、その時だった。公園の植え込みから、大柄な男が飛び出してきた。 「金を出せ」男はドスのきいた声で要求する。  美里は恐怖で目に涙を浮かべている。俺は? いや、矢吹ケイは? 同じく涙目になりながら、足をガクガクと震わせている。しかも、気づかれないようにジリジリと移動しながら、美里の背後に隠れようとしてる。俺は自分の不甲斐なさに落胆した。なんて頼りない男なんだ。  矢吹ケイに任せるのは無駄だと判断した俺は、犬特有の唸るような声をあげながら男を威嚇。相手が怯んだ隙に、足に噛み付いた。痛みで悲鳴をあげる男。さらに力を込めると、男は足を振り回しながら倒れ込んだ。唸り声を発し続けていると、男は諦めたのか、足を引きずりながら逃げ去った。 「シロッ、ありがとう!」  美里が俺を抱きしめる。 「ケイ君も大丈夫だった?」  しゃがんで俺の頭を撫でる美里の視線が、棒立ちのままの役立たずを見上げる。矢吹ケイってヤツは、ほんとに情けない男だ。
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