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そのビルは…たしか、古いマンション…？

行先のない住人のために…取りこわしが出来ないままの…。

そのエントランスへと…そのひとは近づいて…。
なのに…入口のガラスのとびらを、押し開けようとはせずに…？

え？

その…横の壁へと。
そのひとは…向かい合って。

そっと…。
右手の手袋を…外している…？

そして…そのまま…？
右手の…手のひらを…。

かさかさの樹皮のような…コンクリートの壁へと…。

触れさせている…？

なんだか…そう。

まるで…。
くちかけの老木みたいな、そのたてものから…何かを…『受け取る』ように…？
そのかわりに…何かを『分け与える』ように…？

いえ…でも。
そんなの…変だよね…。