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済州島にて
壊れた雨戸の隙間から差し込む光で目を覚ました彼は、起き上がり窓辺に身を寄せた。
そっと戸を開けると、目の前には真白というよりは白銀の世界が広がっていた。
「雪が降ったのか」
と思いつつ、目を凝らしてよく見ると、梅の花びらだった。
昼間見た時は満開だった白梅が、強風によって一瞬で白雪となり地上を覆ったのであろう。
「栄枯必衰は世の習い、とはよくいったものだ。まるで我が身のようではないか」
白梅に身の上を重ねつつ、こう呟いた彼は思わず苦笑してしまった。脳裏には自身が満開だった頃が走馬灯のように巡った。
都城のもっとも豪奢な場所に暮らし、至尊と呼ばれた自分。天から与えられた使命を果たすため我が身を尽くそうと心に決めていた。
結果、道義的に許されぬことにも手を染めてしまったが‥。
今更、弁明などするつもりはない。
かつては自分に平伏した者たちは今はどうしているのだろうか。
周囲を見回しても、侍女も門番も自分のことを「爺さん」と呼んでいる。
それはそれで構わぬ、ただ人生を締めくくる時は見苦しくないようにしよう。この国の王だった者として。
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