命の蝋

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「生きるって、すごく息苦しい。死ぬよりも遥かに難しいことだと思うの」  ずっと心の奥底にとどめていた感情が、堰を切って溢れだそうとしている。口は私のものじゃないみたいに言葉を紡ぎ始めた。 「私も苦しかった。人が、怖くてね……。正直、悩んでいることがたくさんあった。でもね、誰にも相談できなかったの」 「なんだよ、友達いなかったのか?」 「む……そうとも言う。でも、相談できなかったんじゃなくて、私がみんなを避けていたんだと思う。私の味方は、よく見れば居たはずなのにね」  高校生にもなれば、スクールカーストというものが形成される。私は所謂その底辺にいた。けれど、別に全員から嫌われていたわけではない。友人はいたし、心配してくれる優しいクラスメイトもいた。  誰も信じられなくなって全員を突き放したのは、私のほうだった。 「今になって気づいたの。助けを求めようとしなかったのは、周りをちゃんと見ていなかったのは自分だったって。もっとよく考えていれば、今頃私は普通に学校生活を送っていたのかもしれない。……こんな世界に迷い込むことも、なかったのかも」 「……」 「たぶん私に対しての罰なんだね。あぁ、どうしよう……」  目の前の光景が滲む。眩い太陽光を背にしたヤシロの顔が揺らめき、鼻の奥がつんとする。  泣くな。泣くなよ、私。  今更後悔したって、何も変わりはしないのに。 「……そう思うなら、なおさらお前には先に進んでもらわねーと困るな」  ヤシロの大きく骨ばった手が、私の頭をわしゃわしゃと撫でて髪の毛を乱した。ぶっきらぼうな彼の優しさが身に染みて、余計に涙を溢れさせていく。 「ほら、行くぞ。早く世界の果てを見つけようぜ」 「うん……!」  乱暴に目を擦って無理やり涙を引っ込める。またもヤシロに背中を押されて、私は公園を後にする。  世界の果てとは、一体どこにあるのだろう。そこに辿りついた先に、何があるのだろう。そもそも、私が思う方向へ進めば世界の果てに辿り着けるって、この世界の仕組みはどうなっているのか。  それでも、私は行かなければならない。この不思議な世界を抜けて、今まで通りの生活を取り戻したい。  今は、そんな気さえする。 「っ……やばいな」  その時、ヤシロが私の腕を引いた。大きな高校の正門前を通りかかろうとした時だった。 「な、なに……?」 「由紀。お前、足はどのくらい速い?」 「足?そ、そんなに速くない……」 「じゃあ、体力は?」 「体力なら、そこそこ……」 「……頑張れよ」  神妙な顔つきでヤシロは私の背をポンッと押す。何が起きているのかわからないまま、私はよろめいてヤシロのほうを振り返った。
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