亡霊の街

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亡霊の街

 見渡す限り一面の花畑。その真ん中に僕は立っていた。目の前には川が流れている。十メートルくらいの幅があるだろうか。  向こう岸に目を向けると老婆が立っていた。少し靄がかかっていて、その顔は判然としないが、それはどことなく田舎の祖母ちゃんの面影があった。  彼女は何か言っているけれど、僕の耳までは届かない。時折手招きをしながら、僕に話しかけてくる。まるでこちらへ来い、とでも言っているようだ。  そこで目が覚めた。携帯電話のアラームがけたたましく鳴っている。眠い目を瞬きながらアラームを止める。そしてまただと思った。  またあの夢だ。ここ数日、必ずあの夢を見る。花畑の中を流れる川。その向こうで手招きをする老婆。なにか意味があるのだろうかと少し不安になってくる。  あれこれ考えつつ学生服に着替え、カバンを片手に階段を下りた。ダイニングへ行く。母が朝食の用意をしていた。 「あら、おはよう」 「お父さんは?」 「今日は会議あるとかで、少し早い目に出かけたわ」 「そう」と応じてテーブルに着いた。 トーストにバターを塗っていると、 「あら、あの俳優さん死んじゃったのね。まだ若いのに」  その声で母を見る。彼女の目はテレビに向いていた。そこには芸能ニュースが流れていた。 『きっと○○さんも今頃は天国で安らかに眠っていることだと思います』  親しかった芸能人がそんなことを言っていた。  天国……。不意に昨夜見た夢のことを思い出した。あれはもしやあの世なんじゃないだろうか。花畑で手招きする老婆。臨死体験をした人の話にもそんなものがあったはず。いや、それは逆だったか。川を渡ろうとすると向こう岸から亡くなったはずの人が来るなと言う。それに従い来た道を戻ると生き返った。そんな話だったはず。だったら、僕の夢に出る手招きする老婆はなんなのだ。まさか川を渡ると僕は死んじゃうとか?いやもしかしたら、その老婆に何かあったということだろうか。
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