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「そう。盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど、聞こえちゃったの。ごめんね。でも、田島君が見た夢とよく似た夢を私も何度も見るもんだから、気になっちゃって」
「え?星野さんもお婆さんの夢を?」
「違うの。私の場合お婆さんじゃなくて、お父さんなの。お父さんが川の向こうで手招きしているの。田島君と同じ花畑を流れる川の向こうで。その夢を何度も見るのよ」
確かに似ている。ただ僕の場合、老婆が僕の祖母なのかはまだ分からないが、彼女は夢に出たのが完璧に父親だと認識しているようだ。
「失礼だけど、お父さんはまだ生きているの?」
「もちろんよ。でもその夢が何か不幸なことを暗示してるんじゃないかと思ったの。父は今単身赴任で海外にいるんだけど、なんだか心配になっちゃって。それで母に言ったら縁起でもないって逆に怒られちゃった」
彼女は照れくさそうに肩をすくめて見せると、
「でね、実は田島君に声をかけたのは、これからちょっと付き合ってもらえないかと思って」
「付き合うって、何に?」
「占い師に見てもらいに行くの」
「は?何を?」
「夢のことよ。その人すごい霊能力があるんだって。だから何か分かると思うの」
霊能力……。なんだか胡散臭いし、そもそも僕は霊だのなんだのは苦手だ。あまり近寄りたくはない。しかしそんなことを素直に言ってしまうとビビっていると思われそうだから、適当な言い訳を口にする。
「いや、僕はいいよ。この後予定があるんだ。それに夢のこともそんなに気にしてないし」
「そう?だったら私一人で行くわ」
「うん。ごめん。明日、その結果を教えてよ」
「わかった。じゃあ、バイバイ」
彼女は手を振りバス停から離れていった。その後姿を見送りながら少し後悔する。もしかしてこれはチャンスだったのではないだろうか。
家に帰るとダイニングに母がいた。朝からそこを動いていないのではないかと思えるほどの姿勢でテレビを見ていた。
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