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世界には天と地があり、父なる神が定めた理で命が廻っている。
地には王が治める六つの国で民が生活をいとなみ、父神がおさめる天の御領には、社で務めを手伝う斎子たちが暮らしていた。
斎子は父神と地上の民である母たちのあいだに生まれた娘で、生まれたときから御領の大きな屋敷で育つ。そして年ごろになると名をもらい、社で父のそばに仕えることができる。けれど名無しは、十四になってもまだ名を貰う祭に呼ばれなかった。
他の姉妹たちはすでに立派な名をもらって、父がいる社に奉仕しているというのに、この年まで「名無し」なのは己だけだ。
乳母の話しでは、今年は十を数えたばかりの妹まで社に呼ばれたらしい。
ことあるごとにお願いしても、いつも父は「次は必ず」と笑って名無しの頭をなでるだけ。実際に、その約束が守られたことはなかった。
名付けの祭のために地上からやってくる母たちや、たくさんいる姉妹たちは、そんな名無しを憐れんで優しくしてくれる。
祭の後には、「来年はきっと呼ばれるから」と、絹の帯や瑪瑙のかんざしが名無し宛に送られてくる。でも、そんなもの嬉しくもなんともない。
名無しがほしいのは、祭のための衣や髪飾りではなく、社に呼ばれて父から与えらえる名前だ。それは、名無しにも父の関心があるという証拠だから。
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