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二人と別れて家に帰ると母ちゃんと妹が夕飯のしたくをしていた。
「おせーぞ!ミカン」
と妹が言った。2つ下の妹の、朱夏、シュカ。妹は態度も図体もでかい。口も悪い。絶対に彼氏なんてできないと思う。
「さっさと台を拭け!」
男言葉を母ちゃんはよく使う。みっともない我が家の女二人。
「今日は何?」
「はっと!」
はっととは、簡単に言ったらすいとんの事だ。
ごろっとしたサイズに切った鶏肉、ごぼう、干し椎茸、人参、大根を煮て醤油、酒、みりんで味付けした汁に小麦粉で出来た生地を薄くのばして一緒に煮たもの。母ちゃんがよく作る。
母ちゃんは料理はうまい。あんまり洒落たのは作らないけど、卵焼きとか煮物とか唐揚げとか普通の飯がうまい。
母ちゃんは毎日酒を飲む。焼酎やらウィスキーやら飲みながら夕飯を少し食べる。そして毎晩酔って寝る。煙草をとても美味そうに、寂しそうに吸う。俺は小さい頃、美人の母ちゃんが自慢だった。幼稚園の先生にも、近所のおばちゃんにも自慢してまわった。物心ついたときには父親はいなかった。父親は誰だと尋ねるとあんたたちはカートの子供だと言ってごまかされた。俺が小1の時、夜目が覚めると、母ちゃんが玄関から出て行く気配があった。ただならぬ予感がして俺は慌ててどこに行くのか聞いた。しがみついて泣いた。外に車がとまっている気配があった。母ちゃんはじっとして固まってその後、俺にどこにもいかないからと言って扉を閉めた。
母ちゃんはその夜、身も世もなく泣いていた。俺は布団に潜って耳をふさいだ。母ちゃんはその頃、酒を飲んではよく泣いた。罪悪感があった。あの日、俺が母ちゃんを引き止めなければこんなに酒を飲まずに煙草も寂しそうに吸わずに美人のままでいられたんじゃないか。だからいくら飲んで荒れようと責める気にはならなかった。身体は心配だけど。 酔って寒い廊下で寝ていたら抱いて布団に寝かせた。「母ちゃん大好き」そう言って寝かせる。母ちゃんは、そんな時は素直で、「あんたがいてくれて本当に良かった」と言いながら眠った。
少しジャニスに似ていると思った。
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