何にもいらない

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 メイド服に着替えジュンが化粧をほどこしていく。ロングのウィッグを被る。 「やっぱりあんたは凄いよ」 「何が?」 「ほら見て」  渡された鏡の中に化粧をした、自分の顔が写った。 「女だね」  目元が、強調され口唇がグロスで光っている。女性らしさを強調すると俺の顔は女に変わった。女子が化粧をする気持ちがわかる気がする。 「とびきり美人のね」  ジュンが言った。 「ミカ見せろよ」  アキラが教室に入ってきた。 「お前、チンコとっただろ!」 「あります!ちゃんと!」 「これなら平もミカの魅力に気がつくっしょ!」  ジュンが言った。 「ほんと?」  だといんだけど。 「今のお前とならキスできるぜ!」  アキラが言った。  スカートは足がスースーする。ニーハイソックスを履いているが、風が下から入ってくるのが落ち着かない。女子って大変だ。    もうカフェが始まる。行かなくては。   手順は、お客さんが来たら 「おかえりなさいませ、御主人様」女の人なら「おかえりなさいませ、お嬢様」らしい。  オーダーをとってそれで、写真を一緒に撮る。  人々の目線が痛い。 「おかえりなさいませ、お嬢様」 「佐々木くん、かわいい〜」   クラスの女子が取り囲む。 「ありがとう」  かわいい人達からかわいいと言われる俺。 「前から綺麗な顔だと思ってたけど本当に似合ってる」 「佐々木は可愛いよな。俺らはギャグだけど」  他の女装男子達は運動部のマッチョばかり。メイド服が今にも破れそうだ。   俺だけガチみたいで恥ずかしい。  それはそうと、平君にせめて俺の存在を知ってもらいたい。    俺はトイレを口実に抜け出し、特進クラスの出し物を見に行った。  焼そば屋さんと迷路をしているみたいだった。迷路に入ってみたけどいない。屋外の焼そば屋さんにもいない。欠席したんだろうか?    あっいた。いた。いた。用具室に入っていく平君を見つけた。これは遷座一隅のチャンスだ。  俺はガラスに写った自分の姿を確認した。  大丈夫、大丈夫、今の俺は可愛いメイドさん。自分に言い聞かせる。  用具室のドアを開けた。  「平くんだよね」   埃っぽい用具室の中で二人きりになった。  平君は俺を見て訝しい表情を浮かべる。  無理もない。 「一組の佐々木海夏です」 「ササキミカさん?」 「うん」 「綺麗だね、メイドさんしたの?」 「うんありがとう」  綺麗って言われて舞い上がった。 「何探しに来たの?」 「何も探しに来てないよ」  ぴったりと目があった。  この瞳だ。この虚ろな瞳が気になったんだ。 「平君、俺と友達になって下さい!」 「どうして?」 「いやですか?」  平君の表情は何も変わらなかった。快も不快も分からない。 「いいよ」 「君が絶対にしてはいけないことを出来たら喜んで友達になるよ」  
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