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バケモノの正体は?
でも私は少し違和感があった。それは何・・?
(右エンジンの飛行機雲が無くなった。左エンジンには在るのに・・)
右後ろ上方に居るバケモノの姿をよく見るとそれ以外にもおかしな所が在る。今の太陽の位置と伸ばした右手の陰の位置が違う・・。
(あれはCGが映されているってこと・・? そうすると・・)
私は考えていた。田所が最新ソフトを見て豹変したのは? バケモノが『CG』なのにJEJが空中分解した理由・・? それは・・。
「バケモノが右翼を!」
私もバケモノが右翼をもぎ取るのを見た。でもこれはCGの筈だ。同時にマスターワーニングの甲高い警告音が鳴り響き、機体の右への急激なロールが始まる。これも最新の電子操縦ソフト(七.二一)が勝手に機体をロールさせているとすれば・・。
「機長!」
右席の水野が叫んでいる。機体は急激な右ロールに入り、機首を大きく下に向けている。私は操縦桿を操作したが全く操作を受付けない。このままではキリ揉みに入って空中分解してしまうだろう。
私はセンターコンソールのキーボードを叩き、電子操縦の三つのCPUの内CPU2をシャットダウンした。この機体の電子操縦は三つのCPUの合議制で判断をしているが、ひとつのCPUが失陥しても問題無く飛べる。CPU2の電子操縦ソフトを一つ前のバージョン六.二四に変更した。そしてCPU2を再立上げし、CPU1とCPU3をシャットダウンする。合議制が破錠した為、再びマスターワーニングが鳴動したが、ウィンドシールドの表示が一瞬消え再び表示されると失われた筈の右翼は元に戻り、バケモノも見えなくなった。
しかし、機体は大きくロールしながら機首を下に向け、キリ揉み状態で降下している。高度は既に三万五千フィートを切っており機首はピッチマイナス七八度。ほぼ垂直に下を向いている。ウィンドスクリーン一杯に四国山脈の山々の風景が広がる。速度はマッハ〇.九五を超え速度超過警告のステックシェーカーが始まった。音速を超えると機体が空中分解してしまう。
私は推力レバーを引いてエンジン出力をアイドリングに絞った。そして主翼上のエアスポイラーを一杯に展開した。左に操縦桿を倒すとロール回転を収束させ、ユックリと操縦桿を手前へ引く。機首が徐々に上を向き機体が水平に戻っていく。高度は一万五千フィートで安定した。エアスポイラーを格納し、推力レバーを巡航出力に戻す。
機体は巡航高度四万一千フィートから二万六千フィートも急降下していた。私はグレアシールドの高度設定ダイヤルを一五〇とし、実行ボタンを押した。再び自動操縦が始まる。
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