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コックピットでの事件
私の操縦するFE二七〇便はY三五航空路に入り豊後水道の上空、ウェイポイント『ヘイグ』で巡航高度四万一千フィートに到達した。この高度は通常の運用高度の上限に近かったが上手く偏西風に乗って飛行時間を短縮出来る見込みだ。
「田所さん、どうですか? 初めてのコックピットは?」
私は操縦を右席の水野に渡して田所を振り返った。
「はい、凄いですねワクワクします。まだ新品のコックピットに入れるなんて。このスクリーンには後方の表示も見えるんですね」
田所が左右のウィンドウスクリーンを交互に見ている。高高度の飛行の為、左右エンジンから後方に二本の飛行機雲を引いている後部カメラの映像が映し出されている。
「はい、まあ新品と言ってもA整備は済んでいます。電子操縦のソフトも最新の七.二一にアップデートもされてます」
私がそう言った瞬間、田所の表情が一気に変わった。
「何だって? 七.二一はC整備で入れるんだろう。まだ数ヶ月先の筈だ!」
私は突然の田所の激しい反応に驚いていた。
「えっ? 何を驚いているんですか?」
田所はシートベルトを外すと補助席から立ち上がった。そして私の右肩を掴む。
「本当に、七.二一がインストールされているのか?」
私は田所の余りの豹変振りに呆然としながら頷いた。
「はい、ここ見て下さい」
私はEICASモニター下側に在るソフトバージョン情報の表示を指差した。それを見て、田所の顔色が見る見る青くなる。彼が私の肩を大きく揺さぶる。
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