1人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めたら、辺り一面が真っ白だった。そして遠くの方から声が聞こえてきた。
「しろ子にしようよ」
「しろ子かぁ。悪くないなぁ」
それはイヤ!私は目を閉じて無理やり眠りについた。
再び目が覚めたら、辺り一面が真っ赤だった。また声が聞こえてきた。
「あか子にしようか」
「あか子かぁ。悪くないなぁ」
何よ、あか子って!私は改めて目を閉じて眠りについた。
再び目が覚めたら、辺り一面が真っ青だった。
「あお子にしようか」
「あお子かぁ。悪くないなぁ」
お願い。もう少し普通の名前がいい。イライラしながら眠りについた。
再び目が覚めたら、辺り一面が真っ黄だった。
「き子にしようか」
「き子かぁ、悪くないなぁ」
本当に考えてる?特に二人目。真剣に考えてる?いいわ、私が決めるから。そうね、色がいいんでしょ?うーん、決めた。みどり子。みどり子なんてどう?可愛いでしょ。次こそはよろしくね。私はくじを引くような気分で眠りについた。
辺り一面が真っ茶。「ちゃ子にしようか」
辺り一面が真っ黒。「くろ子にしようか」
辺り一面が真っ黄土。「おうど子にしようか」
いい加減にして。もう限界よ。次こそ緑色で目覚めるように、頭の中でほうれん草が一本、ほうれん草が二本、と緑の野菜の事だけを数えながら眠りについた。
目が覚めたら、辺り一面が真っ緑だった。これ!そう!みどり子!私は彼らの声を聞くまでもなく、完全にこの世界から出ていく事を決めた。
「おぎゃあ!」
男は生まれたばかりの赤ん坊を、コワレモノのようにそっと抱きかかえた。女はそんな男の姿を見て微笑んだ。
「そんなにオドオドしなくても大丈夫よ」
「なんか壊さないか心配でさ。かわいいな」
「良かったわね、お父さんが抱っこしてるわよー」
赤ん坊はニコリと口元をあげたように見えた。
「寝てる時にね、辺り一面が真っ緑の世界にいたの。それで名前決めたわ」
「何にしたの?」
「ビリジアン。山本ビリジアン」
「ビリジアンかぁ。悪くないなぁ」
赤ん坊の口元が明らかにへの字に曲がった。
最初のコメントを投稿しよう!