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額から汗が吹き出し、ベッドの上でも着用を義務づけられている眼鏡がずれる。
限界が近づき、壮吾は深い官能から逃れようと首を振った。その拍子に黒縁の眼鏡がフローリングの床へ落下する。
「うあっ、アッ、あ――――」
生理的反射で溢れる涙を目に浮かべ、自分を犯す男を見上げた。
胸の内も身体中のどこもかしこも、秘めた恋情に震える。
「くっ……」と低く呻く声を密かに耳が捉えた次の瞬間、壮吾の奥深い部分で、薄いゴム越しに灼熱の液体が爆ぜた。
壮吾を組み敷いていた身体が、どさりと覆いかぶさる。
耳元にかかる息は荒い。この重みは好きだといつも思う。
自分も呼吸を整えながら、壮吾は男の滑らかな背中にそっと手を回した。しかしその身体は壮吾の手をすり抜け、まだ熱さを残したまま真横へ仰向けに転がる。
事後の気怠さと淋しさを感じながら、男の横顔を見つめた。
深く息を吐き気持ちを落ち着けた後、壮吾は口を開く。
「……ま、確かに、俺の予想は見事に外れるのが相場だもんなあ」
「君は、無能なワトソンでいいんだよ」
先ほどの情熱的な様子とは打って変わり、刻は穏やかな笑みを口元に浮かべる。
つい、その表情に見とれてしまい、壮吾はひっそり自分を叱咤した。
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