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刻には妙な癖がある。
やんごとなき身分を利用し趣味で探偵をやっている彼は、事件を解決した後は必ず興奮状態になるらしい。
要するに、無性にセックスがしたくなるのだ。
特定の恋人は作らない主義で、見た目通り女に不自由しないから相手には困らないようだが、この数か月は、事件後に壮吾をベッドへ引っ張り込むようになっていた。
完全なセックスフレンド状態だが、壮吾は好きな相手に抱いてもらえるのが嬉しくて、ずるずるとこんな不毛な関係を続けている。
根っからのフェミニストで男嫌いの刻が、性欲を我慢できずに男を抱くなんてよほどのこと。……なんだろうとは思う。
けれどそのことについて、壮吾から問いかけたことはない。
追及すれば、この不毛な関係はおろか、十年に及ぶ友人関係も破綻してしまいそうで怖い。(身分が違いすぎてこれが普通の友人関係なのか不明だし疑問だが)それだけ、この久須美刻という男は謎のベールに包まれているということだ。
だから、せめて友人としての縁を切らないためにも、壮吾は余計な詮索はせず秘めた想いも隠し続けている。
――普通は友達と肉体関係なんか結ばないだろうけどな……
「そもそも今回の事件が、春井くんの猿並で貧相な脳みそに解ける程度の謎なら、初めから僕の出番はないよ」
「だよなー、俺の脳みそは猿レベルだしなー…………って、おまえな!」
アップに充分耐えうる秀麗な顔に優雅な微笑みを浮かべ、刻は起き上がる。
本当にこの男は……。一見、虫一匹殺せないような風貌のくせに、女や子供、おそらくは全年齢の女性をコロリと騙せる笑顔を作るくせに。
その形の良い上品な口元から吐かれる言葉は、七割……いや、九割方辛辣なものだ。おまけに命令口調。特に壮吾に対しては。
言われるのがわかっていて話を振った自分も悪いのだが、壮吾は出かかっていた言葉を飲み込む。二人きりの時くらい、なるべく穏やかに会話したい。
「眼鏡、外れてしまったね」
刻の視線の先、ベッド脇に黒縁の伊達眼鏡が転がっていた。
「ああ。汗で滑っちまって……」
壮吾はそれを拾い上げた。念のため壊れていないか点検する。
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