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自分たちの関係はドライなもの。決して、甘いものではない。うっかり勘違いするな。
刻と睦み合った部屋を出るたび、必ず自分に言い聞かせていることだ。
――よし、大丈夫。今回も俺はごく自然に振る舞えた。……はず。
胸の奥がじくじく痛み訴えるのを深呼吸でやり過ごし、壮吾は大股で歩き出した。
「春井様、こちらへどうぞ」
やたらに長い絨毯張りの廊下を、島ノ江の後について歩く。
「あ、そうだ、島ノ江さん。いつも泊まれるように用意してもらってるそうで、申し訳ないです。久須美から聞きました」
島ノ江は隙のない笑顔と、流れるような仕草で会釈する。
「いえ。春井様は刻様の大切な御友人ですから。いつでもくつろいでいただけますよう、用意してございますので、その時は何なりとお申し付けください」
「ありがとうございます」
見てくれだけは無駄に良い主人を筆頭に、この島ノ江といい、屋敷で働く者たちは皆美形揃いだ。実年齢は不明だが、(おそらく三十代半ばだろう)特に島ノ江は包み込むような大人の男の色気をまとっている。
常に穏やかだから何を考えているのかわからないが、壮吾の目から見ても、主人の刻を敬愛しているのはよくわかる。
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