序章 夜、月光が照らす一室にて

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序章 夜、月光が照らす一室にて

____金具が錆びついた木製の扉を、一人の修道女が静かに開ける。 目的の人を見つけると、静かに声をかける。 「貴方、一日中ずっとどこにいるのかと思って探してましたよ。」 ある一室、窓辺に置かれたテーブルに突っ伏す男。男の手元には火の消えた蝋燭と飲み残して冷めたミルクココア、そして一冊の分厚い本____聖書が置かれていた。 開け放した窓の外からは月光が差しており、そよ風と風に揺らされる木々の葉が互いに擦り合う音だけが静寂の世界を支配していた。 ただ、男の艶めいた微かな寝息が静寂の中静かに響いていた。むしろ眠っているその姿だけでも凛としており色っぽく見える。 「本当に男って不思議な生き物。特に貴方は...運命を引き付けるぐらい不思議なものを持っているから...。」 静かに微笑む修道女。ぼそりと独り言を漏らしながら、ベッドに大人しく綺麗にたたまれた毛布を静かにかける。 何事もなく動じることもなく男は眠っている。まるで遊び疲れた子供のように眠りに落ちているようだ。いや、彼は本当に"遊び"疲れているようだ。 貴方がここに来て何年が経ったのかしらね。 ふと呟いたその言葉。 瞳を閉じて寝息を立てる男に向かってまた静かに微笑む修道女。 息子のように、眠る子供をあやすように と、やっと人気に気づいたのか、ゆっくりと目を開けた。 眠りの余韻に浸かりながらも重い体を起こす。 人気がする背後の方を見ると、ニコニコと自分の息子を見守るかのように微笑む修道女がいた。 「こんばんわ、よく眠れたかしら?といっても、もうとっくに就寝時間を過ぎているのだけれどね。」 悪びれもなく、「起こしてごめんなさいね」と相変わらず笑顔を絶やさない彼女。 眠気によって視界が定まらなかったのが、やっと修道女の姿を捉えた。 「...貴方はこんな時間に起きていいのか?」 「いいの、私は修道院長から見回りと貴方の見守りを任されているから。それで、今日は何かあったの?」 「外の街の方で祭りがあったから、でも流石に行くのは無理があるから遠くから見ていた。色々思い出すことがって...。」 「思い出すこと?」 疑問形であるものの相変わらず笑顔の修道女。 男は窓の外の景色に視線をやった。 木々が生い茂っており、その向こう側に点々と灯された光が見える。 遠くの街、遠くの空で無数の閃光が空を仰いでは煌びやかに花を咲かせては燃え尽きて消えていった。 放たれた花火は、恐らく月よりも眩しい。 「...あれから、十年前なので。十年前も、祭りがあったよな。」 「...祭りね、あったわ。もうそんなに経つのね。」 その日、その夜も、街は祭りで賑わっていた。 一月一日の、十年前の過去のことである。
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