パラフィリア

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 先輩は三年生で、私よりも頭一つ背の高い人でした。  室内競技だからか色白で、色素が薄いのか髪も茶色っぽい色をしています。背が高いのでセンターのポジションをしていて、シュートを入れるところをよく見ました。  後輩の男の子たちに、慕われているようでした。  普段は物静かなようなのですが、練習中の声出しや掛け声などは大きく出していました。疲れてくると声を出すのが辛くなるのですが、完全になくなったりすると監督から怒られます。下級生の役目なのですが、その下級生は体力がないため、出したくても出せないときがあるらしく、先輩はさりげなく間を埋めてフォローしていたようです。  そんな気遣いがたくさんあって、下級生たちからは「あの先輩は優しい」と評判だったようです。あのボールの空気入れの時もそうでしたし、面倒見の良い人だったのでしょう。 「はぁ、はっ、ひぁ……いえ、あの、はぁっ……や、休む……ですか?」  夏の練習日でした。  シュートを外すと、学校の階段を一階から屋上まで往復する、という練習がありました。私はセンターなのによく外していたので、何度も何度も往復することになりました。  騒がしい蝉の声も、広がる空の青さも、汗をさらう風もなく、ただただ自分の足音を聞き蒸し暑い階段の中、汗をぬぐう暇もないまま昇り降りをしていたときです。 「その、ちょっと唇がぴりぴりするような、でも、早く終わらせて体育館に戻らないと」  先輩は、ドリンクを私に渡して飲むように言いました。 「……吐く、ですか? 女子は毎年吐く人がいるって、そんな」  立ち止まると、汗が全身を覆って離れず、気持ちが悪くなります。  なんだか、びしょぬれで、髪もばさばさな姿で先輩の前にいることも急に気になってきて、なるべく先輩の目に移らないように、体を小さくしたり半身になったりしました。 「先輩は……え、さぼりですか。先輩って、さぼるんですね」  聞けば、男子はシュートを外すと校内一周だけど、途中のトイレで隠れて距離をごまかし、ちょうどよい時間に体育館に戻るそうです。女子は誤魔化し辛いので、倒れる人が出てしまうとのことでした。だから程よく誤魔化したり休んだりしていいよ、と先輩は言いました。  もちろん、監督には内緒だけど、と笑いながら。  段々と息が整ってきて、汗も引いてきたのに、心臓がどきどきとしていました。普段、あまり見下ろされることもないので、恥ずかしくて、顔だけ火照っていた気がします。
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