パラフィリア

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 私は、恋と言うものをしたことがありません。  だけど、先輩に会うだけで頭の中が真っ白になって、どきどきして、たぶん、これが初恋なのだと思います。部活中に目で追ったり、授業中、体育で校庭にいるのを見つけたり。  なので、すぐに気づくことが出来たんです。 「先輩……彼女さん、素敵な人ですね」  先輩と話すことが、何度かありました。  バスケットボールの試合では審判以外、点数を表示したりモップをかけたりといったことは試合のないチームの選手がやります。空気入れの時のように、私はそんな役目をよく頼まれていて、時々男子のスコアラーをやったりもしました。  男女ともにマネージャーがいなかった、という理由もあったでしょう。  スコアのつけ方は、先輩から教わりました。書いている間にも試合が進むので、見逃したときなんかに先輩が横で教えてくれました。失敗したりしても怒らなくて、むしろ気遣って冗談を言ってくれたりしたので、話しやすいと感じました。  隣に座って、見下ろされると、試合が頭に入らなくなることばっかりで。 「教えるふりして一年口説いてんなよ、浮気言いつけるぞ」  ほかの先輩が、そんなことを言って、ベンチが少し盛り上がったり。  先輩の彼女さんは同じ三年生で、小柄で、明るい人でした。 「幼馴染、なんですか? ……はい、とても、羨ましいカップルだなって。あ、いえ、別に私は……好きな人は、いるんです。でも、付き合ったりとか、そうは思わなくて……その、ただ覚えていてもらえたら、それだけで、私は満足です」  本当です。  私は、先輩を見ているだけでどきどきして、頭の中が真っ白になって、嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちになれるんです。  少女漫画を読んでいたので、嫉妬したり、苦しんだり、泣いたり、そんな気持ちになると思っていました。だけど、先輩が彼女さんと話して、楽しそうにしている姿を見ると、私も胸がふんわりとして、なんだか楽しい気持ちになれるんです。  きっと、諦めていたからだと思います。  私は、彼女さんみたいに小柄で女の子っぽくありません。のっぽで、暗くて、どんくさくて、誰かに好きになってもらったりはできないとわかっていました。だから、好きな人が幸せそうにしていて、私に挨拶なんかしてくれたら、それで満足なんです。  それ以上を望むのは、きっと悪いことで。
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