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「え、告白ですか? そんな、私なんて」
夏が終わって、三年生は受験の準備で部活にはほとんど来なくなりました。
秋の空は高く、風に金木犀の香りがかすかに混じり始めていました。園芸部の菊がよく咲いていて、体育準備室の窓からもその花付きを見ることができました。
「……そんな男の子たちの話なんて、冗談に決まってます。本気にしないでください」
その日は、また一人でボールに空気を入れていました。
先輩は、前に話した『好きな人』の話を蒸し返して、告白してみたらどうか、と言ったのです。下級生の男の子たちが私の好きな人を気にしていたとか、そんな嘘をついてまで。
「かわいくなんて、ないです。かわいいって言うのは、先輩の彼女さんみたいな」
こうして、私の相手をしているのは、彼女さんを待っているのだと知っています。
先輩の彼女さんも部活に顔を出していて、それが終わるまでの時間を潰しているんです。初めて話した日もそうだったようで、だから、他の先輩も先に帰っていたようです。
「そ、そんな話より、先輩は、進学ですか?」
先輩は、もう大学を決めているようでした。
県外の大学で、AO入試でほとんど決まっているとのことです。彼女さんもそこを受けるらしくて、受かると良いけれど、と心配していました。私は二人がこれからも一緒にいることに少し安心して、同時に、さみしくも感じていました。
先輩と、もう会えなくなってしまうかもしれないからです。
県内なら、もしかしたら会えるかもしれません。でも、県外では、会うことはないような気がしました。都市部の騒がしさに慣れてしまったら、きっと地元に戻ってくることもなくて、そのまま都市部で就職をして、結婚をして、生きていくのではと思ったんです。
私は、付き合いたいなんて思いませんでした。
でも、少しでも、私のことを覚えていてもらいたい、と思います。
「先輩、あの……」
私の目線より、少し高い所から優しく見下ろして、笑ってくれる。
そんなこともなくなって、私と先輩は学校の先輩後輩ではなく、ただただ、他人でしかなくなってしまって、写真を見ても名前も思い出せないような関係になるような。
私の初恋が、そんな形で終わってしまうのが、さみしくて。
きっとこれは、私みたいな子にとって、一生に一度の恋なのに。
ただ、覚えていてもらうだけでも。
「じゃあ、告白の練習、つ、つきあってもらってもいいですか」
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