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『電話、いま大丈夫ですか?』
「車停めたから大丈夫だよ。どうした?」
『二人してスイートルームにしけこんじゃいました』
“しけこむ”とは本来、男女が情事を目的としてある場所に入り込む事を指す。志馬の言葉の誤用で、久我のこめかみに青筋が浮いた。
『ホテルのロビーとかラウンジにも、怪しい人物は見当たりません。[エディ]単独みたいです』
「……すっ、すっ、スイートルームに仲間がいるのでは?」
『フロントに確認しましたが、チェックインしたのは一人だけで、予約の人数は2名様だったそうです』
「よっ、よよっ、予約者の名前は?」
『ヤマダジロウって、これ絶対偽名ですよね?』
答える代わりに、久我は鼻から長々と息を吐き出した。吐ききる直前に息が細かく震えたのは、椎野がついに黒幕と接触したからか、それとも別の感情からか。
「……今のところ、異常はない、という事だな?」
『はい、今のところは』
「引き続きそこで待機してくれ。出入りする客にも注意してくれよ」
通話を終えると、すぐさま近嵐の警電を呼び出す。4回目のコールで繋がった。
「変わりないか?」
近嵐らは管内の巡回をしている。黒幕である[エディ]が行動を起こしたことで、仲間に動きがあるのではないかと警戒しての事だった。ヤツらは何故か、港那伽署員を狙っている。
『不審車や不審人物といった情報は今のところないな。至って穏やかな夜だ。そっちはどうなんだ?』
「椎野君が黒幕と接触したよ」
電話の向こうで近嵐が息を呑む気配がした。
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