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「……志馬です」
『今どこにいる?』
班長である久我からだ。心なしか久我の声が緊張を孕んでいる。
「署の入り口です」
『そうか。すぐ上がってきてくれ』
通話を終了すると同時に志馬は走りだした。
ロビーはいつになく騒然としていた。電話はひっきりなしに鳴り響き、制服警官も私服警官も慌ただしく走り回っている。
エスカレーターののんびりとした速度ももどかしく、志馬は1段抜かしで駆けのぼり、そのまま第5係、通称「久我班部屋」まで走り抜けた。
勢いよくドアを開け放つ。
久我と椎野、明智が一斉に志馬へと目を向けた。3人ともいつになく神妙な面持ちをしている事に、ぼんやりとしていた胸騒ぎが一気に表面化する。
「……遅くなりました」
「とりあえず、座って」
久我に促され、素早く自分のデスクにつく。隣の明智がやたらとじろじろ見つめてきて、志馬は居心地の悪さを感じた。
「さっき、110番通報があってな」
両手を組んだまま、淡々とした声音で久我が口を開いた。
「潮入交番の巡査が、何者かに刃物で刺された」
「えっ」
刺された……? 警察官が? 志馬はぎゅっと眉根を寄せた。
そもそも警察官とは、危険と隣り合わせの仕事だ。だが頭では解っていても、いざ直面してみると心がついていかない。
胸の奥で、どくん、どくんと心臓が不快なほどに強く拍動するのを、志馬はどうすることもできず、小さくそっと深呼吸をして堪えた。
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