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だいたい椎野は、食に対して無関心なタイプだと思う。味だって判っているのかいないのか。そんなヤツが味噌バターラーメンを。椎野のクセに。椎野のクセに。
「ご注文は?」
突然の地を這うような野太い声に、志馬は反射的に背筋を伸ばした。視界の隅に、ぶっとい太ももがテーブルにくっつくようにして立っているのが見える。
椎野のことは今はどうでもいい。注文、注文するのだ。
「し……しし、し………」
椎野のことは忘れろ俺!
「し……しぃおラバーターメン!」
「はい?」
凄腕スナイパーのような鋭い双眸が志馬を射抜く。思わず上げてしまった「ひゃん!」という悲鳴は、聞かれてしまっただろうか。
「え、えっとあの、し、しし、しおしお、塩です、塩のラーメン」
滝のように流れ出る血(汗)を見て、志馬が息絶えた(注文を終えた)事を確認したスナイパーが、のっしのっしとアジト(厨房)へ去っていく。
ふうううう、と志馬は姿勢を崩しながら盛大に息を吐き出した。連敗記録絶賛更新中だ。俺はいつかあのスナイパーに一矢報いることができるのだろうか……。
無事に塩ラーメンを胃袋に収め、ガックリと肩を落として署に向かった。
港那伽署の正門へとさしかかった時だった。志馬はいつもと違う空気を僅かに感じ取り、怪訝に思いながら足を早めた。その志馬の目の前を、署から出てきたパトカーがけたたましくサイレンを鳴らしながら走り去っていく。
何か起きた──ぐいと眉を寄せてパトカーを目で追っていると、胸ポケットにしまった警電が無機質な着信音を放った。
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