372人が本棚に入れています
本棚に追加
/170ページ
「なんで……」
志馬の呟きは、事件を聞いた者すべてに共通した疑問だった。
警察は、なにかと一般住民の反感を買ってしまう仕事である。違反切符を切るのも、重大な事故に繋がるのを防ぐ為なのだが、なかなか理解を得られない。逆に、凶悪な事件が起きると、初動捜査が遅いだの何だのと叩かれる。それでも警察官は日夜、住民の安全の為に、文字通り骨身を惜しまず働いている。
それが、なぜ。
なぜ、警察官が刺されなければならないのだ。命さえ狙われるほどの恨みを買ったというのか。
「犯人を追いたいのはやまやまだが、我々にはやるべき仕事がある」
冷静な久我の声に、志馬ははっと我に返った。そう、犯人を追うことだけが警察の仕事ではない。
小さく咳払いをしてから、久我がぐいと顔を上げた。
「警察官を刺した逃亡中の被疑者から住民を守る。これが我々にとって今、最重要任務だ。生安1係、3係とともに地域住民の安全確保に務めてほしい」
「はっ!」
姿勢を正した志馬の声が、薄暗い室内に凛と響いた。
***
潮入交番に近付くにつれ、付近は慌ただしく、そしてものものしい雰囲気に包まれていった。何台ものパトカーが往来し、制服警官が足早に歩き回っている。
志馬と椎野は現場近くで生安1係の近嵐係長と顔を合わせた後、徒歩で住宅街内部へと向かった。この辺りには保育園もあり、もう少し先には小学校や中学校もある。最悪の事態は絶対に避けなければならない。
最初のコメントを投稿しよう!