星 火 燎 原

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「なんで……」  志馬の呟きは、事件を聞いた者すべてに共通した疑問だった。  警察は、なにかと一般住民の反感を買ってしまう仕事である。違反切符を切るのも、重大な事故に繋がるのを防ぐ為なのだが、なかなか理解を得られない。逆に、凶悪な事件が起きると、初動捜査が遅いだの何だのと叩かれる。それでも警察官は日夜、住民の安全の為に、文字通り骨身を惜しまず働いている。  それが、なぜ。  なぜ、警察官が刺されなければならないのだ。命さえ狙われるほどの恨みを買ったというのか。 「犯人を追いたいのはやまやまだが、我々にはやるべき仕事がある」  冷静な久我の声に、志馬ははっと我に返った。そう、犯人を追うことだけが警察の仕事ではない。  小さく咳払いをしてから、久我がぐいと顔を上げた。 「警察官を刺した逃亡中の被疑者から住民を守る。これが我々にとって今、最重要任務だ。生安1係、3係とともに地域住民の安全確保に務めてほしい」 「はっ!」  姿勢を正した志馬の声が、薄暗い室内に凛と響いた。 ***  潮入(しおいり)交番に近付くにつれ、付近は慌ただしく、そしてものものしい雰囲気に包まれていった。何台ものパトカーが往来し、制服警官が足早に歩き回っている。  志馬と椎野は現場近くで生安1係の近嵐(ちかあらし)係長と顔を合わせた後、徒歩で住宅街内部へと向かった。この辺りには保育園もあり、もう少し先には小学校や中学校もある。最悪の事態は絶対に避けなければならない。
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