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椎野は男性から目線を外すと、男性が心配そうに見ていた方向、保育園があるとおぼしき場所へ顔を向けた。
保育園や幼稚園、小学校、中学校は、緊急事態と判断、園児・児童を保護者へと引き渡し、尚且つ集団で下校させる事が決定している。生安1係の近嵐係長からは、下校時の安全確保に務めるよう指示を受けていた。
「門の外に出なけりゃ、外の様子を見ていてもいい」
男性に向き直った椎野がそう告げると、男性は驚いたように白い眉を上げた。
「ただし、少しでも怪しげな人物を見かけたら、すぐさま家に入って施錠して、それから警察に電話で知らせてほしい」
男性は暫しぽかんと椎野を見つめていたが、やがてその目に強い光が宿り、深々と頷いた。
「一刻も早く犯人が捕まるよう、祈ってます」
***
住宅街のなかにある「うみゆり保育園」は、車2台がやっとすれ違えるほどの狭い道路に面して建てられていた。2階建ての、あたたかなクリーム色の建物である。
道路沿いにある5台分の園の駐車場はごった返していた。駐車場に入りきれない車で道は塞がれ、その間を縫うように何台もの自転車が園に向かって走っていく。
「交通整理もしなきゃなんねえな」
ぽそりと椎野が呟いた。と突然、志馬が小さな呻き声を漏らしながらその場にしゃがみこんだ。
「どうした?」
腰を折って覗き込むと、志馬の顔はひどく青ざめており、冷や汗も滴っている。
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