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「署を出てからずっと……オーラにばっか意識集中してたら、なんか吐き気がしてきた」
「目ぇ閉じて、少し座ってろ」
「ああ、悪い……」
ネクタイをゆるめながら壁に寄り掛かるのを見届けると、椎野は保護者を掻き分けて園内へと入っていった。
幼児特有のものなのだろうか、埃っぽいような、どこか古臭いようなにおいのする入り口には、保育士らしい女性が4人ほど、保護者を確認してから園児を引き渡していた。
「港那伽署の椎野です。どのくらいの園児が帰りましたか」
提示した警察手帳をしげしげと眺めたのち、その若い保育士ははっとしたように背筋を伸ばした。
「10名ほどです!」
「本日登園している園児の数は?」
「87名です!」
質問に即座に答えが返ってくる。いい傾向だと椎野は思った。
「自転車や徒歩で帰る子どもは、家が同じ方向の者どうしでまとまって帰るよう手配してほしい」
「はいっ!」
「付近のパトロールを強化しているが、もし不審な人物や車を見かけたら──」
遠慮がちにジャケットの裾が引っ張られたので目を落とすと、5、6歳くらいの園児が3人、興味深そうに椎野を見上げていた。
「けいじさん?」
「けいじさんなの?」
女の子が二人と男の子が一人。妙にキラキラした目で椎野を見つめている。
「はんにんを、たいほしにきたの?」
「パトカーにのってきたの?」
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