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異様な雰囲気だった。山本には霊感などといったものはないが、それが一般とは異なるものであると、第六感が警鐘を鳴らす。意に反して山本の呼吸が乱れた。
パニックに陥りそうになる思考をなんとか鎮め、さきほど通達された被疑者の特徴を、ひとつずつゆっくり思い出す。
グレーのパーカーにジーンズ、白地に黒のラインが入ったスニーカー──
「曽根崎……」
その声は囁き程度のものであったが、曽根崎は足を止めてくるりと振り返った。
山本の示す方を確認した曽根崎の顔色がみるみる変わる。
「応援を呼ぶ。それまでヤツを見失わないよう──」
山本の言葉を最後まで聞かず、曽根崎は地面を蹴った。物音に気付いた男が顔を上げた時には、既に曽根崎が目前まで迫っていた。
***
同日16時27分、事件発生から5時間、被疑者確保。潜伏していた場所は、現場から僅か5キロほどしか離れていなかった。
地域住民はほっと胸を撫で下ろしたが、一部から「5時間もあったら、もっと遠くに逃げられたんじゃないか」と疑問の声も上がった。それに対し警察は、「所持金が小銭しかなかった。電車やバス等を利用しての移動は不可能だった」と話している。
***
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