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その女性の目が、4階からエスカレーターで下ってくるスーツ姿の男を捉えた時、眼球が飛び出るのではないかと思うほどに見開かれ、瞳にキラキラと星が瞬いた。
「亮衛ちゃん!」
細く甲高い声は宇宙にまで響き渡り、まだエスカレーターのなかほどにいる男をぎょっとさせるのに充分だった。
───亮衛ちゃん?
───亮衛ちゃんってまさか……。
警察官たちが低くどよめく。
もっともな話である。彼らの知る人物のなかに同じ名前を持つ者がいた。ただ、同じ名前ではあるが、その人物が「亮衛ちゃん」とうまく結び付かない。自分たちの知る「亮衛」は、長身で筋骨逞しい、29歳の威風堂々たる警部補である。「ちゃん付け」は似合わない。
「お姉さん!」
エスカレーターから「亮衛ちゃん」が叫んだ。
それまでのざわめきが一瞬にして止んだ。
まるで時が止まったかのように、「亮衛ちゃん」と「お姉さん」以外のすべての者がその場に凍りついた。
皆が息を呑んで見守るなか、「亮衛ちゃん」がエスカレーターを駆け降り、「お姉さん」に走り寄る。
──そう、自分たちの知る「亮衛」こそ、この久我亮衛その人だった。そしてこの女性は、長身で筋骨逞しい、威風堂々たる警部補・久我亮衛の、
姉……?
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