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「それで、嘉納さん。不審なメールとは?」
久我の言葉に「お姉さん」こと嘉納の表情が、一気に悲しげになった。
「いやーん亮衛ちゃん。うちのことは"お姉さん"て呼んでってぇ。"嘉納さん"じゃ、なんやよそよそしいやん」
そうだろうか? 名前で呼ぶより「お姉さん」というほうがよそよそしく感じるものではないだろうか。
「なぁ亮衛ちゃん。久我班のみんなとうちは、8月に起きた隣人トラブルからの長い付き合いやのに」
「たかだか3ヵ月じゃねえか」
ぼそりと呟く椎野へ、拗ねたように真っ赤な口を尖らせてみせる。
「なんやねんしぃちゃん、ちょーっとばっか美人さんやからって、そないな言い方しても許されると思てんの? 傷付くわあー」
ちらりと椎野が久我に目を向ける。テメエが連れてきたんだろ、コイツをどうにかしろ。
解った。と久我が頷く。
「お姉さん、本題に移りましょう」
久我に「お姉さん」と呼ばれたことで、嘉納の機嫌がころりと直った。まさに「いま泣いたカラスがもう笑う」だ。子どもか。
「これなんやけど……」
鮮やかな紫色の、猫の毛並みのようなふさふさとしたバッグから、これでもかとデコレートされた携帯を取り出して指先で操作すると、皆に見えるよう机に置いた。
「"メール届いてますか? ゆうこです。これまで説明してきたとおり、どうしても貴女に1200万円受け取ってほしくて"……」
読み上げたのが明智だからか、胡散臭さ倍増である。その明智が携帯から顔を上げて嘉納を見た。
「ゆうこって誰?」
「友達に2人ゆうこがおるけど、うちのこと"貴女"なんて呼ぶゆうこはよう知らん」
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