星 火 燎 原

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 いらない。だが断る勇気もない。  明智はぺこりと頭を下げると、嘉納の手のひらから恐る恐るべっこう飴の包みを受け取った。 「ほら、しぃちゃんにもあげよか? 亮衛ちゃんの分もあるで。遠慮なんかせんと……ん?」  ごそごそとバッグを探っていた嘉納がふと動きを止め、周囲に視線を巡らせた。 「そういや、志馬(しま)ちゃんは?」 ***  駅前の大通りから少し奥に入ったところにある雑居ビル、その半地下部分に店舗を構える「味俱留(みくる)亭」は、都市情報誌でも紹介される人気ラーメン店である。平日の昼前ということもあり、並ぶことなく席に座れたのは運がいい。  奥の二人掛けのテーブルで、志馬は過度の緊張によって坊主頭からだらだらと汗を(したた)らせていた。  ラーメン店の従業員も、シフト制で働いているだろうに、なぜ。なぜ自分が来店すると必ず、コワモテのラガーマンのような恐ろしい店員がいるのだろう? (味噌バターラーメン味噌バターラーメン味噌バターラーメン)  志馬は呪文のように何度も口のなかでメニューを繰り返した。旨いと評判の味噌バターラーメン。食べてみたいと常々思っているのだが、いつもコワモテラガーマンの迫力に気圧(けお)され、うっかり違うものを注文し続けてきた。  なんであんな無愛想なヤツがホールスタッフなんかやっているのだ。無愛想といえば、同じ職場の椎野もとんでもなく無愛想だが、小さいせいか、そこまで恐怖は感じない。  その椎野が、2週間前にここの味噌バターラーメンを初めて食べたなどと言っていた。椎野のヤツ、人の生き血を啜って生きていそうな顔をして、俺より先に味噌バターラーメンを食べるとは。そして、食べた感想が「まあ、旨かった」だと? ナメてんのか。
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