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首都高を降りて、右手に東京タワーを眺めながら車を走らせる。やがて67階建ての、スタイリッシュな外観の高層ビルに辿り着くと、水色にライトアップされた噴水のある広い前庭に車を乗り入れ、そのまま地下駐車場へと進んだ。
午後9時15分。約束の時間より15分の遅刻である。間に合うよう努力はしたのだが、結果が伴わなかったのは仕方ない。特に遅刻の言い訳も考えず、椎野はエレベーターで26階のフロントへと向かった。
エレベーターの大きなドアが開くと、白を基調とした空間が広がった。左手は一面ガラス張りになっており、東京の夜景を一望できる。天井にはアンティークなシャンデリアがきらびやかな光を放っているが、フロア全体は、あちこちに設えられた間接照明によって、あたたかなオレンジ色に照らされている。
フロアに一歩踏み出す。革靴の踵が大理石の床に当たってコツンと透明な音をたてた。
正面にフロントがあり、右手奥には広々としたラウンジがある。時間帯のせいか、客は少ない。椎野はちらりと全体を見渡してから、靴音高くラウンジに向かった。
5つ星ホテルだけあって、ドレスコードでもあるのか、カジュアルな服装の客は見当たらない。至って普通のビジネススーツで来てしまったが、一応ジャケットにネクタイなので許されるだろう。
入り口で足を止めると、窓際の奥の席に座っていた男がゆっくりと立ち上がった。少し長めのウェーブした髪は正直軽薄な印象だが、落ち着いた光沢のある濃紺のスーツは、そのまま結婚式にでも出席できそうである。そんな事をぼんやり考えていると、男が笑みを浮かべながら近付いてきた。
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