373人が本棚に入れています
本棚に追加
エレベーターの前で二人が睨み合っていた頃、久我は一人、ホテルの周辺を車で流していた。
これまでの犯行が港那伽で起きた事を思えば、まさかこんな都心で何か派手な事件を起こすとは考えにくい。が、椎野が呼び出されたのは間違いなくこのホテルである。椎野の安全の為には、班員総出で警戒しても足りないくらいだ。
生安1係の近嵐係長には事の次第を伝えておいた。1係および地域課を挙げて管内の警備を強化してくれている。
ただ、どうしても引っ掛かる事があった。
椎野への最初の電話で[エディ]は、誰もいないところで場所を指定すると言っていた。確かに、まるで監視でもしているのかと疑うくらい、椎野が一人になった時を狙って二度三度と電話をかけてきた。
だが、果たしてそれを、椎野が素直に誰にも言わないと本気で思っているのだろうか。口頭でなくとも、メールや、あるいはメモ書きなどで、いくらでも自分たちに伝える手段などあるというのに。
(それとも……)
広い交差点を左折しながら、久我はむう、と唸った。
(私たちが椎野君を尾行するのを前提としての呼び出しなんだろうか……私たちを1ヵ所に集めて、それで……それでどうする?)
1分と走らないうちに、再び信号に引っ掛かる。久我はゆっくりとブレーキを踏み込んだ。
([エディ]の目的は、久我班を潰すこと……延いては警察組織の壊滅……その手始めに港那伽署を狙ったのは何故だ?)
道路を横断するたくさんの人の波が途切れ、信号が青に変わった。と、その時、助手席に放り出しておいた久我の警電がけたたましく鳴った。横断歩道を過ぎてから左にウィンカーを出し、ゆるゆると路肩に停車させてハザードを出す。通話ボタンを押した瞬間「班長?」という志馬の声が耳に飛び込んできた。
最初のコメントを投稿しよう!