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『……その黒幕とやらの素性はまだ何も解ってないんだろう?』
「無茶言うな、今日初めて電話してきたんだぞ」
『そっちにあと何人か向かわせようか?』
「……いや、いい。志馬君と明智君がいるからな。そっちは管内全域をカバーしなきゃならないだろ。もう、誰ひとりとして被害者を出したくない」
『椎野は?』
近嵐の問いに久我は一瞬言葉を詰まらせた。
黒幕である[エディ]と現在もっとも接近しているのは椎野だ。ホテルの部屋という密室で、得体の知れぬ相手と対峙している。[エディ]がサイコキラーではないという証拠などない。やはり、無謀だったか? 万一の事態が起きた時、志馬と明智だけで対処できるか?
「……椎野君は、とても優秀な警察官だよ」
ややあって久我は、己に言い聞かせるように呟いた。
『ああ、そうだな。それにおまえが何も画策しないで椎野を危険な場所に放り込むとも思ってないし』
「ははっ。さすが近嵐係長、なんでもお見通しだね」
『おっとすまん……他から連絡が入った』
「ありがとう、近嵐係長。気を引き締めてね」
『おう、おまえもな』
通話を終え、久我は再び車を発進させた。
ルームミラーに取り付けた時計をちらりと見る。21時30分をまわっていた。
長い夜になりそうだ。
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