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贅を尽くした一流ホテルのスイートルームは、リビングも寝室も、外壁のほとんどがガラス張りになっていて、東京の夜景を一望できた。65階という高層に位置しているので、眼下に宝石をぶちまけたように見える。
「さてと。じゃあ、脱いでくれる?」
部屋に入るなり開口一番、[エディ]が当然のように言い放った。ソファを前にして突っ立っていた椎野が思いきり顔を顰める。
「あ、脱ぐのは嫌? だったら触るけど?」
「……言われたとおり、財布しか持ってきてないんだが」
「確認させてよ」
薄い笑いを浮かべた[エディ]が近付いてくる。脱ぐのは嫌なので、仕方なく両腕を体幹から少し離した。
ぽんぽんと服の上から体をなぞられていく。ジャケットの内ポケットに入れておいた財布を抜き取られ、テーブルに放り出された。
「携帯も持ってないね?」
ポケットを確かめる為なのだろうが、尻を撫でまわされる。つい舌打ちしてしまった。だが[エディ]は気に留める様子もなく、大腿から足首まで片脚ずつ入念にチェックする。
「ホントに財布だけかあ。意外と素直なんだね」
「わざわざここに呼び出した目的は何だ?」
「まあ、そんなに慌てないで。夜は長いんだからさ」
[エディ]はオフホワイトのソファにどさりと腰をおろすと、ウェルカムドリンクのオレンジジュースをグラスに並々と注いだ。
「ほら、いま開けたばっかりのジュースだよ。変なモン入ってないから」
椎野のほうへ、ひとつグラスを滑らせる。
「あの[エディ]には変な薬盛られちゃったんだよね。あいつ、変態だもんね。安心してよ、僕はそういうの好きじゃないから」
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